昭和61年、京阪奈丘陵に引っ越して来て,早十数年経った。
この十数年間に学研都市の建設が始まり,精華・西木津地区は都市の中心として,近代的な建物が彼方此方に出現した。
我が高山にも,情報化社会を担う先端大学院大学が既に開校するに至った。
既に,田辺地区には同志社大学が移転しており,平城・相楽ニュータウンは大規模な住宅地として完成しつつあり,氷室・津田地区にはイオン工学研究所が発足した。
陸の孤島と言われ,交通の不便な,世間から取り残された辺鄙な我が町が,京阪奈学研都市によって活気づくのは,それなりに望ましい事では或る。
しかし,一方この十数年間で,大昔からこの京阪奈丘陵を住処として,生存していた動物たちが,環境の変化によって,住処を追われ,場合によっては絶滅さされているのも又事実であろう。
この地を心から愛するがゆえに,影の薄くなりつつある動物たちの印象・面影を忘れないうちに書き留めておこう。
◇ 小動物(狸・兎・リス・蛇等)
2004.12.12(月)、朝7時半、家の居間から窓の外を眺めていると、唐楓の梢に何か黒い影が走った。何かと目を凝らすと左の唐楓からマテバシイの葉っぱに隠れ、又桜の小枝から右側の唐楓に、そしてカイヅカイブキの葉っぱから檜の葉っぱに隠れ、最後は柿ノ木の枝から裏山に消えた。
朝の太陽がきらきら輝き、冬支度で葉っぱをすっかり落とした唐楓や桜・柿ノ木の枝を素早く移動する。時々幹の中ほどまでするすると降りてくる。
正しくリスだ。何年ぶりに見ただろうか。10年近く経っているかも知れない。昔は秋から初冬にかけて良く見たものだった。
我が家にリスが来たことが嬉しく、妻や娘・孫に「さっきリスを見たよ」と年甲斐も無く報告した。
狸については,それ程,影響を受けていないようである。むしろ増えているのではないだろうか。
この雑食性の動物は人家が好きらしい。
10年前の夜,三ノ宮神社の前の道で,車の前を横切ったのを見たし,谷の果樹園のすぐ側で,昼間私の10m前を歩いている姿を見た。
10年程前,息子がまだ高校生であったころ,ある冬の朝,私たち夫婦の車の前を息子がバイクで走っていた。
高山城址が見える坂の途中で息子が止まっていた。一度,息子は住宅地を出た所で,バイクに乗っていて車に刎ねられたことがあったため,私たちは心配と不安で急いで近付いた。
何と其処には,まだ温かい子ダヌキがいた。少し前に道を横切っていて車に刎ねられたらしい。息子でなく,ほっとしながら,側の草むらに横たえた。死んで居るようだが,気絶かもしれない。もしかすれば狸寝入りかも・・・・・。
夜帰宅途中,草むらを覗けば可哀想に子ダヌキは,朝,横たえたかっこうそのまま死んでいた。
寒かったため,かちこちに凍っていた。そのままにしておくわけにはいかず,連れて帰り,わが家の山桜の下に埋めた。
何か恩返しがあるかも。
ここ数年は頻繁に姿を見、むしろ身近になった感じだ。
我が家の愛犬ダンを裏の森に散歩に連れて行ったとき、突然何かを見つけて飛び出した。
呼んでも口笛を吹いても音沙汰なし。2〜3分探し回った時、森の中に蹲っているダンを見つけた。
返事をせず、直ぐに戻らなかった故に叱られるのが怖いし、かといって獲物をそのままほっておけないしといった感じだった。
数m先にこげ茶の物が横たわっていた。見れば小さな狸だった。恐怖の為逃げることも出来ず、目を一杯開けて私を見ていた。
抱きかかえると尻尾が食いちぎられていたが、その他はどこも怪我していない様だった。手当てすべく家に連れ帰った。生きている野性の獣を抱きかかえたのは生まれて初めてだった。
獣の特有の匂いがぷーんとした。犬や猫とまったく異質な匂いだった。
家でヨーチンを塗るなど応急手当をしたが、ミルクを飲むことも無く息を引き取った。
多分ショック死だったと思う。この狸も桜の木の下に埋めた。
それ以降、庭で死んでいる狸もいたし、ダンが取り押さえている狸を逃がしてやったこともある。
この2年間は、お隣の平地を借りて畑を作った為、頻繁に見るようになった。
私が畑仕事をしている時、悠々と畑を横切る。ある時など水遣りしている私の直ぐそばでじっと蹲って見ていた。こちらが危害を加えないと分かっているようだ。
畑の斜面の上の小道に狸の「溜め糞」がある。下の竹林でも見かけたことがある。
まさしくここは狸の生活場所なのだ。
最近でも,真夜中ダンが激しく吠えるときがあり,2階のベランダから見れば,垣根の外側を黒い物体が横切る事がある。格好からして,多分タヌキと思う。
兎については,ここ10年見たことが無い。十数年前は,府民の森の八ツ橋 の付近で見たことがある。10年ほど前の冬のある日,裏の森を散歩していたとき,目の前を兎が飛び出し,死に物狂いで逃げ去った。その後を黒い猟犬が追いかけて行き,少し経って鉄砲を持ったおじさんが少々恥ずかしげに歩いて来た。この森が禁猟区かそうでないか知らないが,正直言ってびっくりした。
リスについては数年前までは良く見かけた。当時、秋から初冬にかけて,朝出勤するとき,車の50m先を右から左へ道路横断する姿をよく見かけた。リスが走る姿は,尾っぽを地面に水平にしているため,イタチより細く,蛇より太い感じだ。
高山に来たころ,夜の山道を車で帰りしな,ヘッドライトの先に,何か黒い丸太のような,ビール瓶ぐらいの物体が横切ったのを見て,高山にはツチノコが居るのかと思ったことがある。何回も見たため,まさかツチノコでは無いと思っていたが,リスの走る姿を見るまでは,とんと正体が分からなかった。
そういえばここ数年見たことが無い。
蛇については,昔からさほど変わっていないのではないか。わが家の庭でも,ひなたぼっこして居るのを見かけるし,門の横の乱れ石積みの隙間に,立派な皮を残してあるのを見つけた事もある。その皮はおまじないに私の財布に入っていたが。
朝早く,フナ池に釣りに行ったとき,水面を何匹もの蛇が,鎌首を上げて泳いでるのを見たことがある。何か怖いような幻想的な気持ちになったことがある。それ以来,フナ池にはあまり釣りに行かなくなったみたいだ。
数年前,府民の森でおもしろいケンカを見た。小川の縁で50cmぐらいの蛇と,真っ赤なザリガニが,必死になって戦っていた。ザリガニは蛇を小川に引きずり込もうと,大きなハサミを振り回し,蛇はそうはさせまいと尾っぽをくねくねさせていた。どちらかと言えば,ザリガニの方が優勢だったのが,なんとなくほほえましかった。
蛇が好きではない私だから,何という蛇か名前はとんと分からないが,近くの,きさいちカントリーで,『マムシ注意』と書いてあることから,この付近の蛇は,青大将だけではないのは間違いない。
朱智神社の石の下に,20cmぐらいの桃色の蛇を見たことがあるが,あれは何という蛇か今でも気にかかる。いずれにしてもあまり気持ちのいい話でも無さそうだ。
去年の秋、庭のベランダの直そばで異様な悲鳴を聞き振り向いたら、蛇が大きな口をかっと開いて蛙を飲み込もうとしていた。蛙は胴体をぐるぐる蛇に巻かれており、悲鳴を最後に観念したみたいだ。蛇は私の見ているのも頓着無く、蛙の頭からがぶりと飲み込んだ。全部取り敢えず飲み込むと、さすがに私が気になるのか、「こそこそと」というより「うねうねと」草むらに隠れた。冬眠のための腹ごしらえだったのだろう。
住宅地に続く府民の森で鹿を見たという人に「獅子屈寺」の境内で会ったが、多分その鹿は何らかの事情があって奈良の浅茅が原から来ていたのだろう。
あと小動物といえば、カラスに追いかけられているモグラを見たぐらいだろうか。
◇ 狸の溜め糞
(記述日:2002.7.4)
(掲載日:2002.7.4)