生駒谷の七森信仰とキリツギ地蔵
昨年2020年7月23日に、「高山文化研究会」によって「ふるさと高山の歴史と文化」が発刊されました。
その本には生駒谷の七森信仰と同じようなモリさんが幾つか記されていました。
生駒民俗会に入会し、私は民俗会会長の今木義法著の「生駒谷の七森信仰」(2008.3.31)を知り、訪ね歩き興味を持っていました。
高山のモリさんについては、高田照代さんの「祖霊と精霊の祭場」(2012.3)という専門書があります。
高山に住む私は、生駒市から遊休農地を借り、仲間と畑を作っていましたが、その場所に「キリツギ地蔵」がありました。土地の人たちの話ではまさしくそれは生駒谷の七森信仰と同じでした。
いずれ高山の七森を調べたいと思っていましたので、この際、私のHPにて掲載します。
生駒谷の七森信仰とキリツギ地蔵
(2012.7.28)
溝川牧雄
森を神聖視する信仰は、日本の各地に存在します。
現代においても、町や村、山村に手つかずといわんばかりのこんもりとした森があります。
うっそうと木々が生え、神秘的な雰囲気をかもしだしていたりします。
かつてのモリ(森、杜)神様の名残で、道の真ん中や、公園の隅などに祠があったりします。
原始的な信仰の対象として、モリを神聖視して、鎮守の杜の中にある神社は、もともとはモリ自体を信仰し、その目印として石碑や社、祠をたてたのが順番になります。
各地のモリ信仰には、みだりに森のものを伐るとタタリがある、場所によっては立ち入ることを禁じている場合があります。
生駒には、かつて生駒谷十七郷と呼ばれていた集落群があります。
それが以下になります。
西畑、藤尾、萩原、小平尾、乙田、小瀬、壱分、有里、大門、鬼取、小倉寺、菜畑、山崎、辻、谷田、俵口、小明。
町の文献史料や古い地図をひもとくと、
それぞれの集落には、固有の七つのモリがあり、「モリさん」などと呼ばれていました。
七つのモリを祀るという特異な形態で、「七森信仰」というものが存在していました。
モリの特徴
それぞれの村や、モリには固有の信仰や伝承があります。
存在として系統的に以下に分類できます。
雨乞い
雨乞いに関しては生駒谷十七郷がひとつになって、
谷田、山崎、藤尾、乙田で行われていました。
しかし、モリの信仰と雨乞いの関連については不明。
虫送り
初夏に稲の害虫を駆除する農耕儀礼。
日暮れに松明をつけ村境のモリの側まで虫を誘い、虫を退治します。
カンジョウ縄掛け
村境から侵入する疫病や悪霊を防ぐカンジョウ縄掛けをおこないます。
モリが集落を守護すると信じられていました。
元服祝い
若者の元服祝いにモリを御参りします。
なんらかの信仰の対象
小瀬では金毘羅さんを、藤尾ではミーサン(白蛇)を信仰していました。
西畑では往馬大社の分社を祀っています。
中には民間信仰や、信仰の対象が不明なものもあります。
信仰の対象が不明であっても、定期的にお供えなどをしたそうです。
古代の戦争の戦死者の供養
神武天皇や神功皇后伝説をはじめ、古戦場跡の霊を供養するモリ。
谷田にはナガスネヒコに敗れた神武天皇側の戦死者を葬った場所が伝えられています。
モリのタタリ
モリの特徴は、村々によって異なります。
しかし生駒谷の集落で共通しているのは、
「むやみにモリに近づいてはならない。」
「モリの木、枝一本といえど伐ってはならない。」
といった厳しい禁忌でした。
その禁忌をやぶったものには、激しいタタリをうけるということです。
高山に七森信仰はあるのか
生駒民俗会会長の今木義法さんは「高山の方に、“杜山神社”という神社がある。
森という名を冠しているので、素朴な信仰の象徴と思うが、大きな信仰には育たなかったようだ」と言っています。
私達「高山里山クラブ」は高山の西谷で生駒市の遊休農地を3箇所借りて農作業を行っています。
その農地に面して“大仏道”が東西に走っており、
大和と河内の国境の手前の北側の岩肌に30センチメートルほどの「磨崖仏来迎印阿弥陀如来像」が半肉で彫られており、室町後期の作風を伝えています。
地元の人は一見地蔵尊に見えることから「キリツギ地蔵」と呼んでいます。
地元傍示の複数の人たちから「昔この岩を切って道を広げようとした時、真っ赤な血が噴出した」・「「モリの木、枝一本といえど伐ってはならない。」と言い、誤って刈った人はたたりにあったそうな。
又、「お葬式の時、前を通ってはいけない」ということで今でもお葬式の時はこの道を通らず裏の山道を通っているそうです。
このことから私は高山にも「七森信仰」があるのではと思い、先日高山大橋の北側「宮方橋」東200mの「杜山神社」を探し出しました。
小高い丘の上にあり、地元では親しみを込めて「モリさん」と呼ばれています。
回りの森は良く整備されており、木を切ったり枝を持ち帰ってはいけないと言うことはなさそうでした。
いずれ地元の人の話を聞きたいと思いました。
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