黒部は私にとって忘れられない場所である。
高校時代にそろそろ進路を決めねばならない時に観た石原裕次郎主演の「黒部の太陽」に感動し、土木屋の道を選んだ。
吉村昭の「高熱隧道」は土木の現場における人間関係と自然の猛威に強烈な印象を私に与えた。
今回歩く「下の廊下」はまさしく、高熱隧道の世界そのものだ。
西の立山・剣を登り、東の唐松から五竜岳・鹿島槍ヶ岳・爺ヶ岳を縦走し、南の黒部源流である鷲羽岳を始め薬師・水晶岳を歩いたが、
黒四ダムから欅平に至る「下の廊下」には足を踏み入れられなかった。
切り立った断崖絶壁、豊富な残雪が人を寄せ付けず、毎日登山の会でも熟達者コースと言われている。
今回毎日旅行から「紅葉の黒部渓谷「下の廊下」」という企画が出され、今シーズン最後の山行きとして申し込んだ。
10月17日(日)大型台風23号がまだ日本に近づかない間に黒部に向かって出発した。
総勢25名、女性15名、男性10名のパーティだ。添乗員は旧知の川原井さん。リーダーは畠山さん。
17日は大王わさび園を見学し、信濃大町の「ホテル夢の湯」に泊まった。
18日は朝早く出発し、扇沢からトロリーバスで黒部ダムに行った。黒部ダム直下から歩き始めた。
内蔵助沢出会・十字峡・仙人ダムを経て阿曽原温泉小屋に泊まった。天気は良くスリル満点の歩行だった。紅葉は時期的に早く、台風の影響か紅葉の出来栄えは今一だった。十字峡の迫力はすごかった。ここから槍に向かって沢を詰めればあの有名な幻の大滝のある場所だ。
阿曽原温泉は小屋から5分ほど下った所にあり、電気の無い真っ暗な露天風呂だった。湯加減は丁度良かったが、帰り道で懐中電灯が切れ、真っ暗な道を手探りで小屋に戻った。
19日は阿曽原温泉小屋から折尾谷を超え、志合谷トンネルを通り、欅平まで縦走した。
そこから1時間20分のトロッコ電車に乗り宇奈月温泉に着いた。
温泉に浸かっている時にやっと台風の影響か雨がぱらつきだした。
念願の「下の廊下」を無事に歩けて本当に良かった。
私にとって2004年の山はこれで終わった。

終わり
(記述日:2004.10.20)
(掲載日:2004.10.20)