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奥秩父のヘソ甲武信岳

このところ憑かれた様に深田久弥の１００名山に登っている。

　　　　　　　96･9･14 上州武尊山ｰｰｰｰｰｰｰｰ朝日旅行会
　　　　　　　96･9･16 蓼科山　　　ｰｰｰｰｰｰｰｰ朝日旅行会
　　　　　　　96･9･21 磐梯山　　　ｰｰｰｰｰｰｰｰ妻
　　　　　　　96･9･28 ひうちケ岳　ｰｰｰｰｰｰｰｰ姉
　　　　　　　96･10･13 男体山　　　ｰｰｰｰｰｰｰｰ朝日旅行会

そして今日10月19日、奥秩父のヘソ甲武信岳へ登るべく、早朝5時50分に南千住の家を出た。

１６日の夜、妻と娘の待つ奈良に帰り、１７日の朝、小選挙区になった衆議院選挙の不在者投票に行き、天満橋の電算室に寄り、南森町の本社でのＩＳＯの会議に出席した。夜は会社の仲間と一杯飲んだ。18日の朝東京に戻った。

奈良の家でゆっくりしていたらいいものを、単身赴任の寂しい東京に帰って来るとは、甲武信岳に登りたい一心だと言われても仕方が無い。

今回も朝日旅行会、朝７時に新宿西口スバルビル前出発。
小型バスにて添乗員鈴木さんを入れて総勢２２名。男性は８名、やはりいつもの様に女性が圧倒的に多い。鈴木さんはヒマラヤ登山の隊長を努めるほど、この道のベテランらしい。

首都高速・中央自動車道は大変混んでいた。談合坂で休憩を取り須玉Ｉ・Ｃで下りた。途中左に甲斐駒カ岳、右に茅ヶ岳を確認し、近いうちに登りたいと思った。

清里を通り、野辺山高原で休憩した。鉄道最高地点の標識がある場所から、目の前に八ガ岳がくっきりと見えた。
渋滞の為１時間ほど遅れたのでバスの中で弁当を食べた。信濃川上を通って毛木平口に着いたのは１１時半だった。そこは標高1450m、甲武信岳標高2475mまで約1000mの標高差だ。

11時40分皆でゆっくりと歩き出す。先頭は添乗員の鈴木さん。私は意識的に最後に付く。
一番若い男性登山者と片言話していれば、後ろを振り返った中年女性登山者が「東京に単身赴任で山登りとは、いい趣味ですね」と話しに割込んで来た。

100名山は７０いくつ登ったとのこと。55歳の定年から山登りをはじめ、今は58歳、還暦の60歳迄には100名山を征服したいとのこと。
元気ハツラツ恐れ入った。あちこちの登った山の自慢話しを始めたため、それとなく敬遠する。

１時間半ほどでナメ滝に着く。３０前後の一番若い女性登山者の写真を撮ってあげる。
この道は千曲川上流の西沢沿いの「千曲川源流遊歩道」。唐松の樹林帯をゆっくりと登る。

３時１５分に「千曲川・信濃川水源地標」に着く。ここが日本一長い信濃川の源流かと思えば感無量。飲んだ水がうまかった。
この水源地帯から石南花の多い樹林帯の急坂が続く。３時４０分、奥秩父主脈縦走路の尾根に飛出す。右の尾根道を行けばこの前登った国師岳に３時間半で行けるそうだ。

５分ほど二人が遅れたが、他の人達は疲れた様子もなく、今回のメンバーは粒が揃っていた。鈴木さんも感心していた。
縦走路を左（東）にとって、ガラ場を急登すれば甲武信岳の頂上に着いた。

４時１０分、標高２４７５ｍ。ガスの為、かすかに金峰山らしきものが見えただけだった。
甲州・武州・信州の３ヶ国に跨る山、千曲川・荒川・笛吹川の源流でもある山。
深田久弥ではないが、コブシという名の颯爽とした歯切れのよさに惹かれていた。
金峰山からも、雲取山からも、国師カ岳からも、両神山からも眺めては何時かは登りたかった山・甲武信岳。遂にその頂に立ったのだ。

今夜の宿は稜線を少し下ったとこにある甲武信小屋。100人近くの宿泊者がいるせいか、布団一枚の５０センチ程の寝場所だ。
お隣りさんはバスで一緒に座っていた最年配のお爺さんだ。
最初はこんな年寄りでも本当に山に登れるのかと疑問をいだいていた。しかし途中で歩きかたを見ていれば、余裕を持って軽い足取りでスタスタと歩いているではないか。又良くむしゃくしゃと元気よく食べていた。へばった人は食欲がなく、少しのものでも食べられない。このお爺さんはただ者ではないと思い始めていた。夕食までまだ少し時間がある。
缶ビール１本買って来て、つまみをお爺さんに奨めれば、なんとウイスキーを取り出してちびりちびり始めるではないか。
「お爺さん、足が達者ですね。山はかなりされてるみたいですね。100名山でも？」
「今年ようやく達成しました。」との返事。「ー　ー　ー　ー　ー　ー　ー」
正直言って大変びっくりした。この一年かなりの山を登って来たが、100名山を完登した人を見るのは初めてだ。
「６８歳から登り始めて５年間でやっと，今７３歳です。」
２０歳も若い私、定年になる前にぜひとも100名山を楽しみたいものだ。

この小屋の夕飯はいつもカレーだそうだ。おいしかった。お爺さんにお茶をうやうやしく差し出した。
夜トイレに起きたとき、満天星だらけだった。明日はきっと素晴らしい天気だろう。

朝食後、朝６時半に出発。木賊山を越えて、戸渡尾根を降る。今日もアンカーだ。山もみじの紅葉が素晴らしい。シラビソの木々の間に黄色や赤の美しさ。真っ青な空に映える色とりどりの紅葉。
先週の男体山も良かったがそれ以上だ。女性登山者の華やいだ声。
硅石採掘場跡で硅石を一つ拾った。ヌク沢出会いで休憩、約２時間半掛かった。

梅干しを一つ鈴木さんにあげたら、「すっぱいーーーー」と顔をしかめていた。
ヌク沢から所々に古い軌道が露出していた。きっと硅石採掘と関係があるのだろう。１時間ほどで西沢渓谷との出会いに降りてきた。
１０分ほどで東沢山荘に着く。風呂に入って、昼食は宴会になってしまった。

乗ってきたバスで帰る。お爺さんの名前は「荻井和夫」。私が初めて接した「百名山登頂者」だ。

宴会疲れの為､バスの中ではぐっすり。気が付いたら新宿に着いていた。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 (1996.10.21)

終わり

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