初めての山小屋泊まりー両神山
暮れも押し迫った平成7年12月15日,H大構築会の東京在住同窓会があった。
私が幹事であったため,銀座のルーマニア料理専門店『ダリエ』を段取りした。
16人集まり,卒業以来の友も居り,6時から10時30分まで会話が盛り上がった。
1時間程銀座のクラブ『グッチ』を覗き,明日の非常食(チョコレート少々)を貰った。
今日目指すは雲取か両神か迷っていたが,体力の事も有り,両神山に決めた。
12月16日(土)午前6時目覚める。寝過ごした,遅刻だ,水筒にお茶を入れ6時15分に飛び出した。
池袋7時30分発の特急に乗り,9時過ぎに西部秩父に着く。バスで小鹿野町役場まで行き,乗り換えて10時20分発の両神村村営バスに乗る。
乗客は私ただ1人だ。運転手さんと色々話をしながら,情報収集に努める。途中停まってわざわざ私の為に,パンフレットを取って来てくれた。
うつらうつらしているうちに,終点の日向大谷口に着いた。私1人の貸し切りバスだったことになる。
11時,薄川沿いのアスファルト道を,両神山目指して歩きだす。小屋泊まりの為,今日の日の為買った35lのミレーのルックを担ぎ,一歩一歩ゆっくり歩きだす。18lのミレーは妻用に取っておこう。
30分かかって日向大谷に着く。車道と分かれ,日向大谷を背に登山道に取り付く。宗教登山が盛んだった事を彷彿させる石仏を見ながら,樹林の道をゆるやかに上下を繰り返して行く。
七滝沢出会の会所に着く。産泰尾根の山裾を登り,沢沿いのコースに入る。沢をわたり反して行った後,樹林帯をジグザグに登高する。かなりの急坂で苦しい,足が進まない。100歩行っては一息入れる。
やっと弘法の井戸に着く。水場ではあるが寒さのため,道も凍っていた。滑りそうになった。アイゼンをと思ったが,邪魔くさく,山側を回り道する。清滝小屋が見えたときは正直言ってホットした。
午後2時15分,ログハウスの小屋にたどり着く。これ以上歩く気力はもう無い。
管理人は黒沢さん,動物との触れ合いを詠んだ『けものみち』という歌集も出版する歌人でもある。
素泊まりは3千円だが,二食付きの5千円払って泊まることにする。単独者は私以外に2人,茨城の6人パーテイ,男女1組,それと常連の夫婦1組。
夕食はカレーと黒沢さんの打った煮込みうどん。大変おいしかった。
食後ストーブを囲みながら,黒沢さんの吹くハーモニカに聞き惚れる。久しぶりの山の歌。両神山の名前のいわれ等教えて貰いながら夜も更けて行く。8時消灯。ぐっすり眠る。
朝6時起床。6時45分日の出。山の稜線が赤く染まり,回りがぱっと明るくなった。小屋の横の樹に朝帰りのモモンガが帰って来た。リスより少し小さい感じだ。空中を飛んで帰ってくるモモンガを3匹見た。3匹とも素早く同じ穴に入った。黒沢さんの話では7匹の家族だそうだ。
朝ごはんは卵と味噌汁だった。
7時に清滝小屋裏手の登山道を登り始める。かなりきつい登りだが,休養を十分取ったせいか快調だ。
小屋がみるみる小さくなり,回りの展望が開けてくる。30分程で産泰尾根に出た。尾根道を歩いて20分で両神神社に着く。
この神社の本社の前に二頭控えているのは,深田久弥曰くのオオカミだろう。
地図とカメラと双眼鏡を取り出して,残りはミレーと共にオオカミの前においていく。白井差に帰るには,もう一度ここに戻るから,少しでも楽をしょうとする魂胆だ。荷物はお犬様が守ってくれるだろう。
尾根道を少し進むと休憩舎があった。そこから鞍部に下り,富士見坂の斜面を登り出す。山々の向こうに富士山がはっきりと見えて来た。
最高の天気だ。梵天尾根コースと会って,すぐに両神山の頂上に着いた。標高1723m.頂上には祠があり,その裏の一坪ばかりの岩の平地に三角点があった。朝8時過ぎの為,ガスも無く,絶好の展望となった。
深田久弥も四周の大観をほしいままにしたと書いているが,私も一人岩稜のてっぺんでこころゆくまで眺望を楽しんだ。
双眼鏡で覗いた富士山は神々しいばかりだった。北には浅間山・妙義山そして谷川岳や白根山・男体山も見えた。東は秩父,南は富士山の前に雲取山・甲武信ケ岳・金峰山・瑞牆山,遠くに薄く甲斐駒。西には八ケ岳とその後ろに白く輝く北アルプス。
9時に神社に戻り,リュックを担いで山道を下る。途中にノゾキ岩を見て,鎖場もある林間の急坂を下り,一位ガタワに出た。
小屋で作ってもらったお握りを立ったまま食べて,直ぐに出発する。
バスの時間が気になって,樹林の中をグングン下る。昇竜ノ滝を横目で見ながら,白井差集落に10時30分に着く。11時7分発のバスに間に合うため,白井差口のバス停目指して速足で歩く。乗り遅れれば3時間の待ちだ。やっと間に合った。両神村営バスで秩父鉄道三峰口駅に出る。午後3時過ぎに東京に戻る。
両神山は『あたかも巨大な四角い岩のブロックが空中に突き立っているような,一種怪異なさまを呈している』と深田久弥がいうように,鋸の歯のような岩峰が連なる特異な山容をしている。
この山に,雪のくる前に登れて満足だ。
出来れば年内に雲取山に行きたいが,果てどうなるか,全く分からない。
(1995.12.17 )
終わり
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