私にとって白馬岳は40年前に登った山である。大きなキスリングを担ぎながら、汗をかきつつ登った大雪渓。
白馬岳から朝日岳に向かった稜線の見事なお花畑。日本海に出て、東尋坊で無邪気に遊んだ思い出。
過ぎ去った日々が青春の想い出として懐かしく目に浮かぶ。
100名山達成も目前に迫った今、昔登った山を登り返すことにした。
私のホームページに「深田100名山登山」を記している手前、全ての山行きを載せたい願望もあった。
私の会社生活35年間の山に関する空白が、どのように変化しているか見たいこともあった。
8月14日(土)、お盆だというのに山に向かう私。
8月7日に正覚寺によるお盆参りを済ませ、12日私の両親の墓参りと妻の両親の墓参り・仏壇にお参りを済ませた。今回は私達夫婦と娘と孫娘との墓参りだった。お互いの両親に孫娘を見せて親孝行が少しは出来たかなと思う。
8時50分に大阪毎日新聞ビル前に集まったのは、男性9名女性8名の総勢17名だった。その内4組は夫婦参加だった。最近夫婦参加が増えているみたいだ。今回の山行きでも道中で会った登山者にも夫婦が多かった。若いカップルの数倍が夫婦者だったように思える。
若者の登山者が少ないことを嘆くべきか、中年(老年?)夫婦の元気さを祝うべきか分らないが、やはり今の時代の世相を反映しているのだろう。
添乗者は樽谷さん。私は一緒になったのは初めてだ。このところこのようなツアーでは数名が山友達だが、今回は不思議に誰もいなかった。
白馬岳は100名山を目指す登山者にとってはポピュラーな山だから、既に登っており今回の参加者はこれからの人達が多かったということだろう。
梅田を9時に出発。名神・中央道で豊科ICに向かう。途中名神では「菩提寺PA」で、中央道では「内津峠PA]で休憩。昼食に「カレー南蛮うどん」を食べた。


豊科ICから国道147号を大町を通って白馬に向かう。白馬村の本日の宿「おおね館」は私にとってなじみの宿だ。
同室者は長崎さんと杉本さん。風呂に浸かり夕食を食べて、たまたま遭った「八方夏祭り」を覗く。ビールを只で頂いた。
8月15日(日)今日は猿倉から大雪渓を登って白馬岳直下の「白馬山荘」までの登りだ。標高差約1500m。6時朝食。6時40分宿出発。




天気予想は雨。完全武装で上下の雨具とロングスパッツ着装。
バスで猿倉に着くと、雨が止んでいるではないか。ラッキーだった。
7時25分に登山開始。リーダーは地元大町在住の赤松さん。なかなか親切なしっかりしたガイドさんだった。彼はパーティーを3班に分け、順番に入れ替えて参加者の登山能力と調子を見極め、隊列を考えようとの配慮だった。私にとってこれは初めての経験だった。
最初は真ん中に、休憩後はリーダーの後ろ一番に付くが何となく居心地が悪い。3回目から添乗員の樽谷さんに言ってラストに付く。
目鼻立ちのはっきりしたウイグル人のような女性が私と同じように、いつもラストを歩いているのでと言って私の前を歩く。この隊列は今回の山旅中変わらなかった。







猿倉の標高は約1265m。1時間ほど歩いて大雪渓の最下部(尻)に着くが、雪渓はこの40年間でかなり後退したみたいだ。確か40年前はここから雪渓を登ったと記憶していたが。白馬尻小屋で休憩。ここからかなり歩いてやっとアイゼン着装して、大雪渓歩行となる。
ここまでは蒸し暑かったが雪渓に入ったら、風が涼しく気持ちが良かった。昨日の雨で山の風は秋風に変わったみたいだ。
1時間ほど雪渓の中をアイゼンで登ったが、標高2110mで休憩。







私はラストをゆっくりと歩いたが、足の調子は良く疲れも感じなかった。最近の登山で感じることは、若い時は汗をかきつつしんどい思いをしながら登ったが、最近はここ数年足を攣ったことも無く、はーはーいうことも無くなったみたいだ。
体力的には間違いなく落ちていると思うが、歩き方のコツが分ったのかも知れない。
これまでの100名山登山で色々な経験をして、自信がついたことも影響しているかもしれない。
跳び箱でも走りでも自分がかって到着した高さとか速さは自信となり体が覚えているみたいだ。
私の場合、一日の登山で標高差2000mの片道は悪沢岳で経験し、標高差1500mのピストン(往復)は羅臼岳を始め彼方此方で経験している。
又、縦走コースの場合、50lのバックを背負っての山行きも経験しているため、今回の一泊の縦走は25lのゼロポイントでのザックは苦にならない。
そういうことから登る前から、今回の山は楽だという気持ちがあり余裕があるからしんどくならないのかも知れない。
後ろを振り返れば、平らな連山がいつも見えていた。この山は戸隠山でその左にぴょこんと立っている山が、かって私が高妻山に登る途中に踏んだ五地蔵岳だ。
その奥にC・Wニコルの黒姫山があり、野尻湖や一茶の柏原があり、つい先だって妻と訪れた場所だ。
今年は気候が不順の為か、高山植物は殆ど終わっていた。先日の常念岳登山の時とはえらい違いだ。
花はもう一つだったが、天気が回復し展望は最高に良かった。頂上に近づくに従って遠くの山が見えてきた。
高妻山の左側には特徴ある山容の妙高山、その左にはピラミッドの火打山。南東方面には四阿山とその右に噴煙をたなびかせている浅間山。
さらに南に先日登った八ヶ岳。八ヶ岳の右側にうっすらと富士山も見えている。
剣や立山は目の前に、毛勝山も直ぐそばだ。遠くに槍や穂高連邦も確認できた。
うっすらと白山も見えている。





途中2回ほど休憩を取り、1時半に村営頂上小屋の稜線に着いた。ここは標高2750m。目の前に白馬岳(標高2932m)と本日の宿舎「白馬山荘」が見えている。
山荘に2時19分に着いた。ここは標高2885mだった。
この白馬山荘は40年前からあったが、規模はすっかり大きくなっていた。何でも1500名の収容が可能とのこと。一説ではお金さえ払えば何でもあるとのこと。






我々はお金が無いので、6畳に5人の相部屋だ。一人一畳の確保は山小屋としては感謝せねばならないだろう。同室者は前日の二人に新たに若い中橋さんと私と同年輩の男性。
夕食まで時間が有り余るほどあったので、しゃれたロッジで生ビールを飲みながらリーダーの赤松さんも加わっての山談義。
私のいでたちがニッカズボンに使い古した皮の登山靴、それに最近伸ばし始めた髭の影響もあって、初対面の人達は私をベテランと思うらしい。
初心者の女性から「山の先生先生」と呼ばれるのには気恥ずかしかった。ビールのつまみを差入れてもらったのは嬉しかった。
中橋さんとは夕食後夕陽を見ながら、アテネオリンピックを見ながらいろいろ雑談する。36歳だそうだ。羨ましい。





8月16日(月)、今日は白馬岳頂上に登り、小蓮華山を超えて白馬大池を通って蓮華温泉に下り、温泉に浸かって大阪に帰る予定だ。
4時半起床。5時朝食。5時半出発。天気は良いがひんやりして寒いくらいだ。皆は防寒着として上下の雨具を着けたが、私は赤のウインドウブレーカーだ。ゴルフで愛用したものだが、大概の山行きにはザックに入れてある。
1時間足らずで白馬頂上を踏む。40年ぶりの頂上だ。360度の展望が飽きなかった。富山湾や能登半島が直ぐそばに見えた。
私は40年前にはここから雪倉岳・朝日岳を縦走したが、直ぐそばで手が届きそうだった。
6時に頂上を後にして、30分程で三国境(富山・新潟・長野)を通過。7時20分に小蓮華山を超え、9時前に白馬大池に着いた。
ここから戸隠山と高妻山が良く見えた。








途中に高山植物は少なかったが、トリカブト・フウロ・アザミ・ナデシコ等があった。
1時間ほどで「天狗の庭」に着き、あと1時間で蓮華温泉に着くと思ったが、参加者の中にかなり疲れた女性がおり、結局1時間ほど余分に時間がかかった。







12時前に着いた蓮華温泉で温泉に浸かり汗を流し、カレーの昼食を食べ、バスで大阪に向かった。
盆帰りの渋滞を予想していたが、予定通り大阪に夜の9時ごろ帰ってきた。





今回の登山で100名山の数は増えないが、40年前を振り返っての楽しい山旅だった。
山はちっとも変わっていなかったが、雪渓と山小屋が大きく変わり、私も40歳年をとっていた。しかし山登りに関しては今のほうが体力・気力があると感じるのは自信過剰か?



終わり
(記述日:2004.8.18)
(掲載日:2004.8.18)