悪沢岳(荒川三山の主峰)縦走









このところ深田百名山に取り付かれたように登っている。凝り性の性かも知れない。
人は「そんなに急いで登らなくても!終わったらすることが無くなるでは?」というが、私にとっては山以外にまだまだすることが一杯ある。
いつまでも百名山ばかりに構っていられない。広言してしまったこともあるが、やはり「体の元気なうちに登ってしまいたい」と言う気持ちが本当のところである。



8月22日に東北の飯豊連峰から降りてきて、又26日から南アルプスの荒川三山(悪沢岳)と赤石岳縦走に行こうとする。
私のささやかな登山歴の中で、今が気力・体力とも一番充実しているように感じる。若いときはがむしゃらに登った記憶はあるが、今のように配分を考えて登っていなかった気がする。
今シーズンに入って、標高差1000mの焼岳登山が一番しんどかった。半年間一度も山に登っていなかったこともある。
羅臼岳登山で一日の標高差1400mの往復をこなしたことが自信に繋がった。北岳で標高差1700mをなんなく登ったこと、そして間ノ岳・農鳥岳の登山・下降で標高差2000mを14時間かけて縦走したこと。
そして先日の飯豊山登山で、シュラフと米3合持参の縦走コースを嵐と寒さの中完全踏破したことに多いに気持を強くした。

8月26日朝7時45分に、JR新大阪に集合すると、サンケイ旅行会のリーダー・添乗員角崎さんと女性二人が待っていた。直に同年輩の男性一人も来た。もう一人の男性は京都から乗ると言う。総勢6名が今回のパーティだ。
新大阪8時発「こだま402号」で静岡駅に10時38分着く。駅弁を買う。
大型タクシーで井川に向かう。途中で弁当を食べ、畑薙第一ダムで乗り換え。一般車はここまでで「東俣林道」を東海フォレストの専用車で椹島ロッジに入る。風呂に浸かり、夕飯を食べ、角崎さんとビールを飲みながら語り合う。彼とは今回で5度目だ。前回の約束どおり奈良の銘酒「春鹿」を差し入れる。



南アルプスで荒川三山という。東岳と中岳・前岳である。三つを総称して荒川岳とも言うが、深田久弥は東岳を悪沢岳と呼ぶようかなり強硬に主張している。最近では東岳(悪沢岳)という呼び名も一般的になってきた。
8月27日朝4時10分出発。朝弁当と昼食弁当持参だが、朝の弁当おにぎりは一つ玄関で食べた。未だ暗く、ヘッドランプをつけ、縦走に不必要な荷物をコインロッカーに預け椹島ロッジを後にする。今日の予定は千枚小屋。明日は赤石小屋泊まりなので、明後日ここロッジに帰って来る予定だ。ここは標高1123m。千枚小屋は標高2610mなので、今日は標高差約1500mを登ることになる。
リーダーの角崎さんを先頭にゆっくりと登る。私はリーダーに続く。この順序は最後まで続くことになる。
今回のメンバーは山岳部出身ベテランのIさん。同じく大阪の山岳会会員のOさん。女性は和歌山高野山出身のUさんとMさん。いずれも60歳前後ではあるが、格好から見て(靴と服装・ザック・歩き方)山のベテランであることは直に分かった。
最近こそ私は良く山に登っているが、他の4人は私よりベテランみたいだ。
約1時間歩いて休憩する。標高差で約300mだ。このペースは私のペース。私はこのリーダー角崎さんと5回目だが、これまで全てリーダーのペースに付いて行った。このような団体行動のとき、リーダーより前に行く人、ペースに注文を付ける人がいるが、私は徹底的にリーダーに忠実だ。今回の縦走中も休憩の取り方を含め全てリーダーに任せた。
6時20分、小石下で休憩。7時半に水場で朝食休憩。沢の水は美味しかった。ここは標高1840m。約半分登ったことになる。
ナシを一つ持ってきていたので、6等分して皆に分けてあげた。皆からも後に色々頂く。
体の調子は快調。少しも疲れていないが、後のことも考えここからストックを使う。リーダーはダブルストックを使っている。



清水平・蕨段を越え、10時前に駒鳥池に着く。時々ぱらぱら小雨が降るが、カッパを着るほどでもない。展望は悪い。標高2400m。
もうすぐ千枚小屋だ。ベテランIさんがしんどそうだ。大きなザックが応えるのか。
途中にマツムシソウとトリカブトを良く見た。
10時38分遂に千枚小屋到着。標高2610m。約6時間足らずで標高差1500mを登ったことになる。約20000歩。12km程歩いたことか。
千枚小屋で水を補給したり、ベンチで団欒していると、角崎さんが「時間も早いので、悪沢岳に登って中岳の避難小屋まで行かないか?」という。リーダーは皆の体調・実力を考えて言っているのだろうが、いつもの悪い癖だ。前回の飯豊山もそうだった。
私はリーダーの途中の発言からさもありなんと、「残りの標高差を考えるとき、いつも悪沢岳の3141mを想っていた」のでいやでは無かったが他の人達はどうか。確かに元気なら残り500mの標高差はたいしたことは無い。それも時間は十分にある。



女性陣は賛成、男性は賛成ではないが反対もしなかった。私は内心は進みたかったが、「どちらでも良い」との態度。
結局出発したが、すぐにOさんが「私は小屋に残る」と言い出した。
なんでも昨晩は眠れなかったそうだ。彼だけは特別料金を払って個室だったのに。今朝もご飯が食べれなかったそうだ。頭がぼっとしているとのこと。
皆は一瞬立ち止まったが、リーダーの「取り敢えず千枚岳の頂上へ登って昼食にしょう。そこで判断しょう。」
ハイマツの生える砂礫の斜面をよじ登り、45分かかって頂上に着いた。展望は良くないが頂上だけあって明るい。標高は既に2880mだ。
昼食を取ったら、Oさんはなんとか歩けると言った。



千枚岳から砂礫の斜面を下り、鞍部に出る。やせた稜線上の鞍部を3ヶ所通り過ぎ、草付きの斜面を登れば広い尾根となり丸山(標高3032m)の頂上だ。
そこから悪沢岳への岩稜を登り悪沢岳頂上へは、1時33分に着いた。ここは標高3141m。荒川三山と赤石岳で一番高い。確か私の記憶では日本で6番目に高い山だ。展望は悪く、頂上写真を撮って直に出発。9時間ほどかかって標高差2000mを登ったことになる。私の一日の最高記録だ。



急斜面を降ると中岳の鞍部だ。やせた岩尾根をゆるやかに登る。小さな地蔵尊があった。斜面をジグザグに登り、草付きの鞍部に出ればそこに中岳避難小屋があった。
Oさんは元気が良くなったみたいだが、Iさんがしんどそうだ。途中でも立ち止まって肩で息をしていた。
リーダーの角崎さんは「ここまで来たなら、荒川小屋まで行こう。そうすれば明日は下まで降りて民宿泊り。温泉にも浸かれる。
私もそうしたかったがIさんのことも考えて「まだこれから中岳も前岳も越えねばならない。皆の意見を聞いてくれ」と。
Oさんが今度は元気良く女性陣の了解を得る。女性のお二人は元気が良い。足もしっかりしている。Iさんも反対しなかった。



荒川中岳はすぐだった。ここも3000m級の標高3083m。途中の稜線で雷鳥の親子連れを見た。3羽いたが近づいても逃げようとしない。30数年前に北アルプスで見て以来だ。
降って荒川小屋への分岐点で荷物をデボし、空身になって前岳へ登る。
前岳の頂上(標高3068m)はえぐれて断崖絶壁だ。ガスが部分的に消えて塩見岳がその雄姿を見せてくれた。私は9月初旬に登る積りだ。



大斜面のお花畑の中を降り、ダケカンバの林の中を抜けて、荒川小屋に4時7分に着いた。良く歩いたものだ。37000歩。約22km。
朝から12時間近く歩いた。何よりも標高差2000mをクリアしての大縦走だった。累積標高差はかなりのものだと思う。
今回のメンバーはすべて体力もあり、足もしっかりしている。特に女性陣の頑張りはすごいと思った。



まずビールで乾杯。満足感で最高に美味しかった。350mm一缶で600円。Iさんが焼酎を出してきた。私の差し入れた「春鹿」も出る。 色々なつまみがそれぞれのザックから出てきて小宴会となる。
夕食まで宴会が続き、一升瓶が空になって終了。酔いと疲れで夜中トイレに一度起きただけ。熟睡した。


  (2002.8.30) 

        終わり 








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