超特急登山ー蔵王山
深田久弥の「百名山」はかなり昔に書かれた本である。100ある山のうちには、当時から俗化されていた山もあるし、年月によって観光化された山もあろう。山そのものの値打ちは変わっていなくても、アプローチの難易等は時代の変化によって変わるのは致し方ないことではある。
蔵王山はそういう意味で最も登りやすい山の代表であろう。
山に登ろうというものは多かれ少なかれ都会の喧騒から離れ、静かな自然の懐に抱かれたく山に登る。
私もそういう意味で蔵王に登ろうとは今まであまり思わなかった。
むしろ誰でも登れる山だから、百名山完登には一度は登らねばならない山だから、100番目の最後にとっておき、家族や孫も連れて最終を飾ろうかなという氣もあった。

ツアーの中日9月2日、今日は「磐梯山」登山だ。今から数年前、私は妻と二人でほぼ同じコースを登ったことがある。
荒木さん、角崎さんに無理を言って、一日だけ自由時間を貰うことにした。
磐梯高原の「ホテル高原荘」を7時23分のバスで出発。猪苗代に7時55分着。磐越西線上り8時4分発で郡山に8時45分着いた。8時55分発の東北新幹線で「白石蔵王駅」に9時20分頃着。9時35分発の宮城交通バスで1時間40分掛かって「蔵王刈田山頂」に着く。

まだ11時過ぎだ。快晴。展望がすこぶる良い。
まず刈田岳山頂を目指す。神秘的な「お釜」が青いエメラルドの水面を見せてくれる。青い空と真っ白な雲。伸びやかな高原風の丘。荒々しい削られた噴火口。ロケーションは最高だ。
ただ周りの人々は殆どが観光客だ。私のニッカーズボンと登山靴。全ての荷物を詰め込んだザック。ステッキと帽子。少々気恥ずかしいがゆっくりと登る。刈田嶺神社があった。ここが昔は蔵王の山頂だったらしい。参詣する。
頂上で妙齢のサングラスをかけた女性が「叔父さんー格好いい!」と言ってくれた。
人から格好いいなど言われたことの無い私は、ビールでも奢ろうかと一瞬思ったが、限られた時間しか無いわが身を思って諦めた。

最高峰の「熊野岳」への道は、だだっ広い馬の背の山稜を行く。お釜の形が変わる。お釜を抱きかかえるようにそそり立つ「五色岳」の山肌は赤茶けた地層を幾重にも重ね、火山の恐ろしさを見せ付ける。山頂の熊野岳神社にお参りする。ここは標高1841m。
展望は良く、飯豊・朝日・月山の嶺嶺が見渡された。
1時40発のバスで降りる。お客は私一人だった。
帰りの交通の連絡は悪く、結局JRは普通で帰る。猪苗代からバスはなく、タクシー代6000円程払って沼尻温泉の「田村屋旅館」に7時過ぎに帰った。皆は磐梯登山を終え、宴会の真っ最中だった。拍手で迎えられた。
なんでも百名山の最後の「蔵王」を登ってきたと勘違いしていた人も居たらしい。
2ヶ月程前の日経新聞に百名山のことが載っており、其の記事によれば、日本で百名山の完登者は1000名足らずだそうだ。
確かに最近私は良く山に登っているが、あった中で完登者は今まで75歳のお爺さん一人だけだった。
ガイドさんを初めプロの人達でも極めて少ない。
今朝の朝日新聞によれば、59日で91座登り、最短新記録を狙う冒険家もいるそうな。
ひとそれぞれの山の楽しみ方もあり、当然百名山に対する思い込みも違って当然だ。
私は私なりの考えで、又一里塚として百名山を早いうちに登りきってしまいたいと思っている。
登りきることが最終目標でなく、新たな私の山歩きの出発点となればいいなあと夢見ている。
(2002.9・4)
終わり
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